自分のアプリを新規登録から全部触って、122枚撮った結果
使い方ガイドを書こうとして、まず自分のアプリを新規登録から全機能まで通しで触ることにした。
普段は開発者として使っているので、初めて開いた人が何に詰まるかが分からない。だから登録画面から順に、実際にスマホの幅で操作して、全ステップのスクリーンショットを撮った。122枚になった。
推測でガイドを書かずに済んだので、この方法は正解だった。ただし出てきた結果は、想定と違っていた。
詰まる箇所は「機能が難しいから」ではなかった
撮り終えて記録を見返すと、詰まりどころは3種類に分かれることが分かった。しかもどれも「機能が複雑で理解できない」という類ではなかった。
A. 導線がそもそも存在しない
たとえば、耐性メーターを動かすには基準収入の設定が要る。ところが登録直後の初期設定でそれを聞いていない。だから何も設定しないまま進み、ホームのメーターは「未設定」のまま。どこで設定するのかを教えてくれる導線もない。
支払い手段も同じで、1つも登録していないと入力画面に支払い手段の欄そのものが出ない。初見だと「現金しか記録できないアプリ」に見える。
B. 数字の根拠が画面に無い
児童手当の画面に金額が出るが、それが何の額なのかが画面に書かれていない。彩色率という指標が何の割合なのかも、画面上では分からない。収入モードを切り替えるとメーターの分母が変わるのだが、切り替えた本人にその変化が説明されない。
C. 家計簿の用語そのものが分からない
「自動計上」「振替扱い」「明細型/一括型」。これらはアプリを作った側の語彙であって、初めて見る人には意味が取れない。
一番の発見は、Aをガイドで説明してはいけないこと
3種類に分けてみて、扱いが根本的に違うことが分かった。
B と C はガイドの仕事だ。 画面に書ききれない前提知識や用語の意味を、別の場所で引き受ける。これは正しい役割分担で、ガイドがあることで画面がすっきりする。
A はガイドの仕事ではない。 これはアプリ側の不備であって、本来は UI を直すべきものだ。
ここで「ガイドに書いたから解決」としてしまうと何が起きるか。ガイドが UI の欠陥の言い訳置き場になり、UI は永久に直らない。 「使い方ガイドに書いてあります」と言える状態は、作る側にとって都合が良すぎる。
だからガイドを作るときに、A に分類したものは別のリストに切り出して、実装課題として残すことにした。ガイドの目次には入れない。
ガイドの原則も、ここから決まった
分類がはっきりすると、ガイドに何を書くべきかも決まった。
画面を見れば分かることは書かない。 「入力ボタンを押します」のような手順は、スクリーンショットがあれば要らない。書くのは、画面に出ていない前提と根拠だけだ。
数字の意味は必ず言い切る。 その金額が何の額なのか、その割合が何を分母にしているのかを、曖昧にせず書く。
「今月」のような時期に依存する言い回しを使わない。 読む時期が違えば意味が変わる文章は、文書としてすぐ腐る。
この原則は、ガイドの元データを置いているファイルの先頭にコメントとして書いてある。原則を書いておかないと、書き足す人(未来の自分を含む)が必ず崩すからだ。
撮ったものは他にも使える
122枚のスクリーンショットは、結果的にガイドの挿絵にもなったし、機能を紹介するときの素材にもなった。
ただしここには注意点がある。公開用のスクリーンショットは、必ずデモ用のデータで撮る。 本番の画面には運営者本人の家計が入っているので、そのまま出すわけにいかない。検証用のデータを入れた世帯で撮り直す運用にしてある。
これは当たり前に聞こえるが、「ちょっと画面を見せたいだけ」のときほど油断する。撮る前に、どの世帯にログインしているかを確認する癖をつけている。
推測でドキュメントを書かない
この作業から得た一番の教訓は、単純なものだった。
自分のアプリの使いにくさは、自分では分からない。
作った本人は導線を知っているので、導線が存在しないことに気づけない。基準収入の設定場所を知っているから、聞かれていないことに気づけない。この盲点は、頭で考えても外れない。
外すには、実際に最初から触って、詰まった場所を記録に残すしかなかった。122枚は面倒だったが、推測で書いたガイドを後から全部書き直すより、はるかに安く済んだと思っている。