コラム

銀行連携をあえて作らなかった家計簿アプリの話

公開日 2026/7/31
設計の話銀行連携

家計簿アプリを選ぶとき、たいていの人が最初に見るのは「銀行やカードと連携できるか」だと思う。連携すれば、入力しなくても勝手に記録が溜まる。手で打つ手間がゼロになる。

ふたかけにはその機能がない。作らないと決めた。

便利さを自分から捨てているので、その理由を書いておく。

連携は「便利」と引き換えに何を要求するか

銀行連携の仕組みは、突き詰めると利用者の金融機関の認証情報を、家計簿アプリ側(またはその提携先)に預けることで成り立っている。近年は API 連携で預けずに済む形も増えているが、いずれにせよ「自分の口座の中身を、第三者のサーバーが継続的に読める状態」を作ることに変わりはない。

大手のサービスなら、それを扱う体制がある。監査もあるし、事故が起きたときに責任を取る組織がある。

ふたかけは個人が運営している。 夫婦2人で使うために作ったものを、同じ形で使える人に開いているだけのアプリだ。この規模で「他人の口座を読み続ける仕組み」を持つのは、率直に言って引き受けきれない。

技術的に作れないという話ではなく、事故が起きたときに責任を取れる大きさを超えているという判断だ。

「入れたくない」の実体は規模ではないかもしれない

もっとも、以前これを整理したときに気づいたことがある。

「個人運営のアプリに金融データを入れたくない」という不安の実体は、運営が個人か法人かではなく、何をしているのかが説明されていないことなのではないか、という点だ。大手でも説明が無ければ不安だし、個人でも「何を保存して、何を外に出すか」が全部書いてあれば判断できる。

だからふたかけは、外部と通信する箇所を数えられる状態にしてある。通常の利用でサーバーの外に出ていくのは、レシート撮影時の OCR と、決済(Stripe)と、メール送信だけだ。それ以外の画面はどこにも接続しない。銀行連携が無いのは、この「数えられる」状態を保つうえでも都合がいい。

失ったもの

正直に書くと、失ったものは大きい。

入力の手間がそのまま残る。 これが最大の代償で、言い訳のしようがない。連携があれば0だったはずの作業が、毎回発生する。

記録漏れが構造的に起きる。 特にカードは、払った瞬間に何も減らないので忘れる。ふたかけには請求額と記録の突き合わせ機能があるが、それは「漏れる」ことを前提にした後始末であって、そもそも漏れない連携型には及ばない。

「気づいたら家計簿ができている」という体験は絶対に作れない。 使う人が動かなければ、ふたかけには何も溜まらない。

それでも得たもの

一方で、手入力にしたから成立していることもいくつかある。

「何に使ったか」が必ず入る。 連携で取り込まれる明細は、店名と金額と日付だ。そこから何のカテゴリかを推測する処理が必要になり、当然外れる。手で入れるときは、買った本人が「これは食費」と決めて入れるので、推測が要らない。分類の精度は、実は手入力のほうが高い。

使ったことを一度自覚する。 これは効果を測ったわけではないので個人の実感でしかないが、金額を打つ数秒のあいだに「今日これだけ使った」と自分で認識する。自動で溜まる記録には、この瞬間がない。家計簿の目的が「記録を残すこと」ではなく「暮らしを把握すること」なら、この数秒は無駄ではないと思っている。

アプリが単純になる。 連携が無いので、認証情報の保管も、金融機関ごとの差異の吸収も、連携が切れたときの復旧も要らない。その分を、入力の速さや画面の分かりやすさに回せる。

代わりに何をしたか

手入力を選んだ以上、入力を速くすることが最優先の課題になる。ここは逃げられない。

  • 金額はテンキーで打つ。割り勘や割引はその場で ÷2−500 として計算できるので、暗算してから打ち直す必要がない
  • レシートは撮れば店名・日付・金額が入る。ただし読み取り結果は必ず人が確認する(この判断については別の記事に書いた)
  • 毎月同じ固定費は定期項目として登録すれば、こちらが何もしなくても毎月並ぶ

つまり「自動で全部やる」の代わりに、「手を動かす回数と量を減らす」方向に振っている。

この選択が合わない人がいる

最後に、これは正直に言っておきたい。

記録の網羅性を最優先する人には、ふたかけは向いていない。 1円単位で全部の口座を漏れなく追いたいなら、連携型のアプリを使ったほうが目的に合う。手入力は必ずどこかが抜ける。

ふたかけが向いているのは、「全部は追えなくていいから、今の暮らしが収入の範囲に収まっているかを、ふたりで同じ画面を見ながら把握したい」という使い方だと思っている。

作っている側が向き不向きを言うのは商売として下手だが、合わない人に使ってもらって「思っていたのと違う」となるほうが、お互いに損だと考えている。

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